(レポート)日本のトラック業界の展望

はじめに
日本のトラック輸送産業は、国民生活および経済活動を支える重要な社会インフラであり、約20兆円の市場規模を有しています 。EC市場の拡大やグローバル化の進展に伴い、トラック輸送の需要は増加傾向にあります 。一方で、業界はドライバー不足、環境問題、2024年問題など、多くの課題に直面しています。
本レポートでは、提供された調査資料に基づき、日本のトラック業界の現状と課題、そして将来展望について考察します。
日本のトラック業界の市場規模と最近の動向
日本のトラック輸送産業は、2023年時点で約19兆円の市場規模を有しており 、物流市場全体の約3分の2を占めています 。これは、2010年度の12兆2,437億円から 、ネット通販の普及による小口貨物の宅配増加などを背景に、着実に増加してきたことを示しています。2018年度には19兆3,576億円に達し 、コロナ禍を経てさらに拡大しました。EC市場の拡大は、トラック輸送の需要増加に大きく貢献しており、2023年度の宅配便取扱個数は50億個を超え、前年度比で約0.3%増加しました 。2021年度の宅配便取扱個数は49億5,323万個で、前年比2.4%増と増加傾向にあり 、トラック輸送の需要増加に拍車をかけています。
2021年のトラックシャーシの販売台数は114.7万台(前年比10.0%増)、販売金額は2兆9,986億円(前年比16.7%増)です 。2020年は販売台数、販売金額ともに減少しましたが、2021年はともに増加に転じました。コロナ禍前の2019年と比べて販売台数は縮小していますが、販売金額は同水準まで回復しています 。
最近の動向としては、以下の点が挙げられます。
- 燃料価格の高騰: 原油価格の高騰は、トラック運送事業者の収益を圧迫しています。価格転嫁の遅れもあり 、経営の安定化が課題となっています。
- 環境規制の強化: 環境負荷低減のため、CO2排出量削減などの環境規制が強化されています 。EVトラックや燃料電池トラックの導入促進など、環境対策への取り組みが求められています。
- 2024年問題: 働き方改革関連法の施行により、トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が2024年4月から適用されました。これにより、輸送能力の低下やドライバーの収入減、事業者の業績悪化などが懸念されています 。
- ドライバー不足: 少子高齢化の影響もあり、ドライバー不足は深刻化しています。2022年現在で約84万人 のドライバーは、40代と50代が中心であり 、10年後以降のドライバー不足が懸念されます。
トラック業界における技術革新
トラック業界では、自動運転、電動化、AI、IoTなどの技術革新が進んでおり、これらの技術は業界の課題解決に貢献すると期待されています 。
自動運転
自動運転技術は、ドライバー不足の解消、安全性向上、輸送効率の向上に貢献すると期待されています 。レベル4の自動運転技術 の実用化に向け、国内外で研究開発が進められています。
レベル4の自動運転とは
自動運転はレベル1から5まで、5段階に区分けされており、レベル4ではODD(運行設計領域)の範囲内ならドライバー不要となります 。
政府の取り組み
政府は、2025年度までに全国50カ所程度、2027年度までに100カ所以上で、自動運転システムを活用した移動サービスの実現を目標としています 。2024年2月16日に発表された「2030年に向けた政府の中長期計画」の中では、「自動物流道路の構築を10年で実現を目指す」としており、東京~大阪間での実現を目指し、物流量の26%を自動物流道路に転換する計画です 。
国内メーカーの取り組み
国内メーカーでは、いすゞ自動車が2027年度にレベル4のトラック・バス事業を開始すると発表 し、新東名高速道路での実証実験 にも参加しています。
自動運転技術導入の効果
自動運転技術の導入により、長距離輸送の効率化、ドライバーの疲労軽減、事故リスクの低減などが期待されます 。
電動化
環境負荷低減のため、EVトラックや燃料電池トラックの導入が進められています。
政府の目標
政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、2030年までに小型トラックの新車販売における電動車比率を20~30%にする目標を掲げています 。
EVトラックのメリット・デメリット
EVトラックは、CO2排出量の削減、騒音の低減、燃料コストの削減などのメリットがあります 。航続距離の短さや充電時間の長さなどの課題 もありますが、技術革新により克服されつつあります。
海外メーカーの動向
世界各国のメーカーで、自動車のEVシフトは加速の動きを加速させています。特に電動化で先行している欧州メーカーは、大型トラックでもすでにEV電気自動車を発売し、開発目標を航続距離の延長に置いて、競争が激化しています 。
トラック業界の課題
トラック業界は、以下の課題に直面しています。
人手不足
ドライバー不足は、業界の大きな課題です。有効求人倍率は高く 、若年層の割合が低い など、人材の確保が困難な状況です。
人手不足の要因
- 長時間労働や低賃金
- 体力的な負担の大きさ
- 労働環境の厳しさ
- 高齢化の進行:2022年現在、55~64歳の労働者は1,235万人、65歳以上の労働者も927万人と55歳以上の労働者が25~34歳の労働者1,151万人を超える水準となっています 。
環境問題
CO2排出量の削減など、環境規制への対応が求められています。
トラック輸送による環境負荷
トラック輸送は、運輸部門のCO2排出量の約4割を占めており 、環境負荷低減への取り組みが急務です。
環境規制の具体例
- 炭素税:炭素の排出に直接税金が課せられます。日本の炭素税率は、EU諸国と比べて低い水準です 。
- 排出量取引制度:企業間でCO2排出枠を売買する制度です。
2024年問題
働き方改革関連法の施行による時間外労働の上限規制は、輸送能力の低下やドライバーの収入減、事業者の業績悪化など、様々な問題を引き起こす可能性があります 。
2024年問題による影響
- トラック事業者:今まで通りの輸送ができなくなる、ドライバーの増員が必要になる
- 荷主:必要な時に必要なものが届かないかもしれない、輸送を断られる可能性がある
- 消費者:当日、翌日配達の宅配サービスが受けられないかもしれない、生鮮食品などが手に入らなくなるかもしれない
トラック業界の将来展望と成長の可能性
トラック業界は、多くの課題を抱えていますが、EC市場の拡大やグローバル化の進展など、成長の潜在力も秘めています 。
成長の可能性
- EC市場の拡大: ネット通販の普及により、宅配便の需要は増加傾向にあり、トラック輸送の需要を押し上げています 。EC市場の拡大は、ラストワンマイル配送など、より小型のトラックの需要増加にもつながると考えられます 。
- グローバル化の進展: 国際的な物流需要の増加は、トラック輸送の需要拡大に繋がります。
- 技術革新: 自動運転、電動化、AI、IoTなどの技術革新は、輸送効率の向上やコスト削減に貢献し、業界の成長を促進すると期待されます 。 特に、EVトラックは、環境規制の強化や燃料価格の高騰を背景に、市場が拡大すると予測されています 。
将来展望
- 自動運転: 高速道路での自動運転トラックの導入が進み、長距離輸送の効率化やドライバー不足の解消に貢献する 。
- 電動化: EVトラックや燃料電池トラックの普及により、環境負荷が低減される 。
- スマート物流: AIやIoTを活用した物流システムの導入により、輸送効率が向上し、コスト削減が実現する 。
- 物流効率化の重要性: 2024年問題や高齢化、過疎化といった課題を解決し、持続可能な物流システムを構築するためには、物流効率の向上が不可欠です。 共同配送、車両の大型化、モーダルシフト、再配達削減など、荷主、消費者をも巻き込んだ総合的な取り組みが求められます 。
2024年問題への対応
2024年問題に対して、何も対策を行わなかった場合には、2030年度には輸送力が34%不足すると言われる中 、問題解決のカギを握るのがトラックやバス、タクシーなどの自動運転化です 。
長期的な持続可能性
物流の2024年問題により、トラックの輸送能力がひっ迫し、従来の物流サービスを維持できなくなる可能性が懸念されていますが、高齢化や過疎化の進行による物流への影響を踏まえ、「2024年」という一断面ではなく、2024年以降を見据えた中長期的な視点で物流の持続可能性について議論することが求められます 。
主要なトラックメーカーの動向と戦略
日本のトラック業界においては、いすゞ、日野、三菱ふそう、UDトラックスの4社でほぼ独占しています 。自動車業界として見るとトヨタがトラック業界を先導しています。ダイムラーとトヨタで予定されている持株会社(上場)が誕生すれば、ダイムラー子会社の三菱ふそうとトヨタ子会社の日野は統合されます。トヨタといすゞは資本提携を結んでおり、いすゞはボルボからUDトラックスを買収しています 。
日本の主要トラックメーカーの動向と戦略は以下の通りです。
| メーカー | 動向と戦略 |
|---|---|
| いすゞ自動車 | 自動運転トラックの開発 、EVトラックの開発 、トヨタ自動車との資本提携 、2030年までに商業用モビリティソリューション企業への転換を目指す「ISUZU Transformation - Growth to 2030(IX)」戦略 |
| 日野自動車 | トヨタグループとの連携 、EVトラックの開発 、トレイトンとの戦略的提携 |
| 三菱ふそうトラック・バス | ダイムラー・トラックの技術を活用 、EVトラックの開発 |
| UDトラックス | いすゞ自動車傘下 、完全自動運転トラックの開発 |
トラックの種類
トラックは、用途や積載量に応じて様々な種類に分類されます。大型トラック市場においては、クラス8と呼ばれる大型トラックが、その効率性と積載能力の高さから需要が高まっており、2036年までに約56%の市場シェアを獲得すると予測されています 。
デジタル変革
トラック業界の経営層の64%がデジタル改革を重要な生き残り戦略と考えていますが、既にデジタル変革が進んでいると答えた先駆者企業は37%にとどまっています 。デジタル変革推進における主な課題は、以下の4つです 。
- デジタル人材の不足
- サイバーセキュリティー対策
- 既存システムとの互換性
- データ分析能力の不足
政府の政策や規制の影響
政府は、トラック業界の課題解決に向け、様々な政策や規制を導入しています。
働き方改革関連法
- トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制
- 時間外労働の上限規制は、年960時間(休日労働含まず)
- 改善基準告示により、拘束時間等が強化
グリーン成長戦略
- 電動トラックの導入促進
物流の2024年問題対策
- 荷待ち時間削減、労働環境改善、取引環境の適正化
- バース予約システムや自動化など即効性のある設備投資の促進
- モーダルシフト、脱炭素化といった物流GXの推進
- 自動運転、ドローン配送といった物流DXの推進
- 物流標準化(パレットやコンテナ規格の統一)の推進
- 高速道での速度規制(80km/h)の引き上げ
- 大口・多頻度割などの高速道料金の見直し
- 特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
- ダブル連結トラックの導入推進
- 集配中車両の駐車規制の見直し
- 共同輸送の促進
- 軽トラック事業の適正運営や安全確保
- 多様な人材(女性、若者、外国籍)の活用・育成
- 荷主・消費者の行動変容:置き配やゆとりのある配達日指定に対してポイントを付与
- 商慣行の見直し:トラックGメンによる集中監視月間を設定
改正貨物自動車運送事業法
- 荷主への指導強化、運送契約の書面化
- トラックGメン(仮称)による荷主・元請の監視強化、結果公表、継続的なフォロー体制強化
- 多重下請け構造の是正 :最初に運送を受ける貨物自動車運送事業者を元請運送事業者とし、実運送体制管理簿の作成を義務付ける。また、契約等により下請けを2次までに制限等することや、実運送事業者が適正な運賃を受取れるよう荷主と運賃交渉を行うことも義務付ける。
物流の革新に関する関係閣僚会議
- モーダルシフト、自動運転、ドローン配送などの推進
これらの政策や規制は、トラック業界の環境改善や持続的な成長に貢献すると期待されます。
トラック業界の投資機会とリスク
トラック業界への投資には、以下のような機会とリスクが存在します。
投資機会
- 成長市場: EC市場の拡大やグローバル化の進展は、トラック輸送の需要を増加させます 。
- 技術革新: 自動運転、電動化、AI、IoTなどの技術革新は、新たなビジネスチャンスを生み出します 。 特に、EVトラックは、今後5年間で市場が拡大すると予測されており 、投資機会となります。
- 政策支援: 政府は、トラック業界の課題解決に向け、様々な政策支援を行っています 。
リスク
- 2024年問題: 働き方改革関連法の施行による時間外労働の上限規制は、輸送能力の低下やドライバーの収入減、事業者の業績悪化など、様々なリスクをもたらします 。
- ドライバー不足: 人材不足は、業界全体の成長を阻害する可能性があります 。特に、賃金や労働条件の良い企業に、熟練したドライバーが流出するリスクがあります 。
- 環境規制: 環境規制の強化は、企業の負担増に繋がります 。
海外のトラック業界との比較
日本のトラック業界は、海外と比べて以下の点が異なります。
- 輸送形態: 欧米ではトレーラーが主流ですが、日本では単車トラックが多い 。
- 労働環境: 日本のトラックドライバーは、拘束時間が長く、低賃金である傾向があります 。欧米では、1日の労働時間に対して運転時間に上限が設けられていますが、日本では1カ月や1年など、長期の拘束時間に基準を設けています 。また、週次休息(休日)の期間等に基準がないのも欧米とは異なっています 。
- ドライバーの役割: 日本では、ドライバーが無料で積み降ろし荷役を行うことが一般的ですが、米国では荷主側が積み降ろしを行うことが多く、この違いが労働生産性に影響を与えている可能性があります 。
- 技術革新: 自動運転や電動化の分野では、欧米メーカーが先行しています 。
海外主要トラックメーカー
| メーカー | 国 | 特徴 |
|---|---|---|
| ダイムラートラック | ドイツ | 高い技術力、三菱ふそうトラック・バスを傘下に持つ、燃料電池に注力 |
| トレートン | ドイツ | Navistarを合併、MAN、スカニアなどを傘下に持つ |
| ボルボグループ | スウェーデン | トラック事業が最大の事業部門、安全性と環境性能に注力 |
| PACCAR | アメリカ | 高品質なトラックを提供、ケンワース、ピータービルトなどのブランドを持つ |
| 中国メーカー(東風汽車、一汽解放など) | 中国 | 低価格を武器に市場を拡大 |
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結論
日本のトラック業界は、ドライバー不足、環境問題、2024年問題など、多くの課題に直面しています。しかし、EC市場の拡大やグローバル化の進展など、成長の潜在力も秘めています。
自動運転、電動化、AI、IoTなどの技術革新は、業界の課題解決に貢献すると期待されています。政府の政策支援も、業界の持続的な成長を後押しするでしょう。
投資機会としては、成長市場、EVトラックなどの技術革新、政策支援などが挙げられます。一方、リスクとしては、2024年問題、ドライバー不足、環境規制などが挙げられます。
海外のトラック業界と比較すると、輸送形態、労働環境、技術革新などの面で違いが見られます。特に、日本のトラックドライバーの労働環境は、拘束時間が長く、低賃金であるなど、厳しい状況にあります。
日本のトラック業界が持続的な成長を遂げるためには、以下の取り組みが重要です。
- ドライバー不足の解消: 労働環境の改善、待遇の向上、人材育成などに取り組む必要があります。
- 環境負荷の低減: 電動化、燃料電池化、モーダルシフトなど、CO2排出量削減に向けた取り組みを加速する必要があります。
- 2024年問題への対応: 労働時間短縮に対応した輸送体制の構築、自動運転技術の導入などを進める必要があります。
- 技術革新の推進: 自動運転、電動化、AI、IoTなどの技術革新を積極的に導入し、生産性向上と効率化を図る必要があります。
- 国際競争力の強化: 海外メーカーとの競争に打ち勝つために、技術力向上、コスト削減、サービス向上などを目指す必要があります。
これらの課題を克服し、技術革新を推進することで、日本のトラック業界は持続的な成長を遂げ、国民生活および経済活動を支える重要な役割を果たし続けることが期待されます。
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